求人サイトを見ていると、「新規開設」「オープニングスタッフ募集」と書かれた訪問看護ステーションが意外と多いんですよね。立ち上げから関われるって、ちょっと惹かれる。でも同時に「できたばかりのところって大丈夫なの?」と不安にもなる。
私は、立ち上げ期の訪問看護ステーションで管理者を1年やりました。職員は、施設からそのまま移ってきた2人だけ。最後までその人数は増えませんでした。
先に正直に言っておくと、私はスタッフとして立ち上げ期のステーションに入った経験はありません。なのでこの記事は、ステーションを運営する側にいた私が、中から感じていたことをもとに書いています。「入るならここは確認してほしい」と、いまなら言えることをまとめました。
立ち上げ期のステーションは、1年で中身がガラッと変わる
立ち上げ期のステーションに入るなら、まず知っておいてほしいのがこれです。入ったときの忙しさと、数か月後の忙しさは別物になります。
最初は「利用者さんがいない」ところから始まる
開設したばかりのステーションには、当然ですが利用者さんがほとんどいません。だから私は、管理者として自分で営業に回っていました。行き先は地域包括支援センター、グループホーム、高齢者施設、病院、ケアマネさんのところ。看護師なのに営業?と自分でも思いましたけど、契約が取れないとステーションが回らないので。
しかもこの営業、最初の1か月で終わりではありませんでした。管理者を辞めるまで、ずっと続けていました。このあたりの話は看護師なのに営業?訪問看護の管理者が地域を回った話に詳しく書いています。
利用者さんが増えて、人は増えなかった
営業の成果もあって、利用者さんは増えていきました。立ち上げ直後は数人だったのが、私が辞めるころには30人ほどに。数字にも表れて、職員の給料はちゃんと払えていました。そこはよかったです。
ただ、職員は2人のまま。利用者さんだけが増えたので、訪問は私に集中していきました。管理者になっても訪問件数は減らないどころか、増える一方でした。
立ち上げ期のステーションは「人が少ない前提」でスタートすることが多いはずです。そこに利用者さんが増えてきたとき、誰がその分を持つのか。これが一番の分かれ目になります。
立ち上げ期に入るメリット
リスクの話ばかりだと不公平なので、いいところも書いておきます。
管理者との距離が近い
少人数なので、スタッフと管理者の距離はとても近いです。私のところでも、スタッフからの相談の電話は私に直接来ていました。一番多かったのは、利用者さんの状態変化についての相談です。
大きなステーションだと、相談が何人かを経由することもあると思います。立ち上げ期の小さなステーションなら、困ったときにすぐ管理者に届く。これは安心材料になります。
滅多にない経験になる
私が管理者を引き受けた理由のひとつは、「滅多にないチャンスだし、経験になる」と思ったからです。立ち上げは、やろうと思ってもなかなか関われるものではありません。
営業も運営も初めてで、最初の1か月は本当にきつかったです。それでも、ステーションがゼロから形になっていく過程を中から体験できたことは、いまでも自分の財産だと思っています。
入る前に知っておきたいリスク
業績の伸びと、人の補充がズレやすい
これは私自身の失敗でもあります。利用者さんが増え始めた頃、私は本部に人の補充を相談しませんでした。「利益がもっと出てきてから」と考えていましたし、本部の相談相手も疲れているように見えました。結局、自分の中で完結させてしまったんです。
その結果、訪問看護の伸びるスピードと職員の人数が合わなくなって、管理者の私一人が疲れ切りました。スタッフとして入る場合も、この「伸びと人手のズレ」の影響は受けます。訪問が増えれば、そのしわ寄せは誰かに行くので。このときの詳しい話は、訪問看護の立ち上げで管理者が疲弊した理由|元管理者の失敗から学んだことに書きました。
オンコールの回し手が少ない
少人数だと、オンコールを分け合う相手も少ないです。私は毎日オンコールを持っていました。実際に出動するのは月1〜2回でしたが、携帯が鳴るかもしれない緊張がずっと続いて、仕事から完全に離れられる日はありませんでした。
オンコールのしんどさについてはオンコールがきつい看護師へ|毎日オンコールだった私の体験と負担を減らす選択肢にまとめています。立ち上げ期のステーションを考えているなら、ここは必ず確認してほしいところです。
マニュアルもルールもないところから始まる
立ち上げたばかりのステーションには、マニュアルも手順もありませんでした。ルールは、動きながら作っていく状態です。
私のところでは、そのマニュアルやルールを管理者の私が一人で作り、動きながら都度修正していました。昨日決めたことが、今日には変わっていることもあります。
スタッフとして入る場合、最初は「決まっていないこと」だらけだと思っておいたほうがいいです。自分で考えて動くのが好きな人にはやりがいになりますが、手順どおりに進めたい人には、かなりしんどい環境です。見学や面接では「マニュアルはあるか」「誰が作っているのか」「スタッフもルール作りに関われるのか」を聞いておくと、入ってからのギャップが減ります。
管理者が営業も運営も抱えている
立ち上げ期の管理者は、訪問・営業・運営・レセプトを全部抱えていることがよくあります。私がまさにそうでした。
管理者に余裕がないと、相談の電話をかける側もちょっと気をつかうと思うんです。でも訪問看護では、相談が遅れると対応も遅れます。実際に、相談が遅れたことで対応が遅れてしまったこともありました。だからこそ、「相談しやすい状態を管理者が保てる体制かどうか」は大事です。
面接・見学で確認したい4つのこと
私は管理者を引き受けるとき、面接でスケジュールを詳しく聞き返して、返事はその場でせずに持ち帰って決めました。立ち上げ期のステーションに入るなら、スタッフとしても、次の4つは聞いておいて損はないです。
① 利用者さんが増えたとき、人をどう補充するのか
「いまの人数」より「増えたときの動き方」を聞いてください。補充を判断するのは本部なのか、管理者なのか。目安はあるのか。ここがはっきりしないなら、私のところと同じことが起きる可能性があります。
② オンコールは何人で回すのか
当番の人数と、管理者がどれくらい持っているか。人数が少ないうちは仕方ない部分もありますが、「増えたら分担が変わる予定があるか」まで聞けると安心です。
③ 管理者にはどんなサポートがついているのか
私にはメンターがつきましたが、契約上の3か月だけでした。外れたあとに一番きつかったのは、忙しさより「判断を誰とも分け合えない孤独」です。管理者が孤立していると、その余裕のなさは現場にも出ます。管理者側の話は訪問看護の管理者に誘われたら確認したい5つのことにも書いています。
④ 管理者や運営側が、どんな看護をしたいのか
私が考える「いい職場」は、看護の価値観や理念が近い人が、同じ方向を向いて目標に向かえるところです。職員を大事にするのはもちろん、利用者さんにいい看護を届けることを考えている人がいるかどうか。ビジネスなので稼ぐことも大事ですが、立ち上げ期は特に、この価値観が職場の空気をそのまま決めます。
こう書いておいてなんですが、正直に言うと、私のステーションには共通の理念がありませんでした。私自身は「安心できる看護を届けること」を心がけていましたが、それをスタッフと言葉にして共有する機会は作れていなかったんです。
その結果、看護に対する温度感の差がとても大きくなりました。私なりに歩み寄ってはみたものの、同じ方向を向いて協力し合える関係にはなれませんでした。どちらが悪いという話ではなく、立ち上げの最初に「どんな看護をしたいか」を一緒に決めておかなかったことが、あとから効いてきたんだと思います。
だからこそ、これから入る人には、ここを確認してほしいんです。管理者や運営側が、どんな看護をしたいのか。そしてそれを、スタッフと共有しようとしているのか。理念がはっきりしない立ち上げ期のステーションは、人が増えても同じ方向を向きにくいからです。
それでも「立ち上げ期はやめたほうがいい」とは思わない
ここまで読むと怖くなったかもしれませんが、私は立ち上げ期のステーションを否定したいわけではありません。
いま振り返ると、私のところがしんどくなった原因ははっきりしています。業績とスタッフの配置・補充をセットで考えられなかったこと。そして、管理者にしかできないことと、人に任せられることの優先順位をつけられなかったこと。つまり立ち上げ期だからダメなのではなく、立ち上げ期に「体制をどう作るか」で決まるということです。
私はもともと「職員は宝」だと考えていて、それはいまも変わっていません。ただ、いま思えば、管理者である自分自身も、その職員の一人として大事にするべきでした。
だから、これから立ち上げ期のステーションに入ろうとしている人には、上の4つを確認したうえで、納得できたら飛び込んでみてほしいです。自分で聞きにくいことは、転職サイトの担当者に確認してもらうのも手です。私は管理者を辞めて病棟に戻るときにナース専科を使いました。ただ、担当者から聞いた情報がすべてではないので、気になるところは見学や面接で自分の目でも確かめてください。

