訪問看護の立ち上げで管理者が疲弊した理由|元管理者の失敗から学んだこと

働き方・職場

訪問看護ステーションの立ち上げで、管理者を1年だけ務めました。そして、疲れ切って辞めました。

これまでこのブログでは、立ち上げ期の体制がどれだけきつかったか、という話を中心に書いてきました。今回は少し視点を変えます。「管理者として、私自身はどうすべきだったのか」。自分の判断の失敗を、できるだけ正直に振り返ってみます。

いま立ち上げの管理者を打診されている人、すでに管理者として疲れている人に、同じ道をたどってほしくないと思っています。そんな気持ちで書きました。

立ち上げ期は「管理者が頑張るもの」だと思っていました

立ち上げのきっかけは、知り合いからの依頼でした。「メンターをつけるから初心者でも大丈夫」と言われて、引き受けることにしました。メンターは契約上、最初の3か月だけです。

職員は、施設からそのまま移ってきた2人。この人数は、私が辞めるまで一度も増えませんでした。

それでも当時の私は、あまり疑問を持っていませんでした。立ち上げ初期はスタッフも足りないし、管理者が頑張るもの。そう考えていたからです。

給料も、他のスタッフより良かったです。だったら自分が多く背負うのは当然だと、自然に思っていました。この考え方自体は、いまでも間違いだとは思っていません。ただ、「頑張る」の中身を、もう少し冷静に考えるべきでした。

何が起きたか|成長のスピードとスタッフの数が合っていませんでした

管理者の私も、訪問に出ていました。そして訪問件数は、減るどころか増える一方でした。私自身の訪問は、1日5件ほどだったのが、最後には10件ほど。施設訪問がある日は、施設2〜3か所の訪問をその日にまとめて回すなど、なんとかやりくりしていました。

理由ははっきりしています。私自身が営業に回っていたからです。地域包括支援センター、グループホーム、高齢者施設、病院、ケアマネさん。営業は最初の1か月だけではなく、辞めるまでずっと続けていました。そのころの話は看護師なのに営業?訪問看護の管理者が地域を回った話に書いています。

営業が実るほど、利用者さんは増えます。立ち上げ直後は数人だった利用者さんが、辞めるころには30人ほどに。施設との契約も、ゼロから4つほどまで増えました。それ自体はうれしいことです。でもスタッフは2人のまま。この規模を、スタッフ2人と私の3人で回していました。増えた訪問は、結局ほとんど私のところに集まってきました。

いま振り返ると、起きていたことはシンプルです。利用者さんや業績が伸びるスピードに、スタッフの数が追いついていませんでした。その差を埋めていたのが管理者の私一人で、だから私一人だけが疲弊していきました。

一方で、良かったこともあります。数字が伸びた分、職員の給料はきちんと払えていました。ここは素直に、良かったと思っています。

失敗① スタッフの補充を一度も相談しませんでした

一番の失敗はこれです。スタッフの補充についても、困っていることや要望についても、私は本部に一度も相談していません。

なぜ相談しなかったのか。理由は3つあって、どれか1つというより、少しずつ全部でした。

理由1:「利益がもっと出てきてから」と考えていました

立ち上げたばかりで人を増やしてほしいと言うのは、まだ早い気がしていました。もう少し利益が出てきてから。そうやって先送りしているうちに、訪問はどんどん増えていきました。

理由2:本部の相談相手も疲弊していました

本部で相談できる相手も、疲弊していました。そんな人にさらに頼みごとをするのは気が引けて、気づけば全部を自分の中で完結させるようになっていました。

理由3:本部との信頼関係に自信がありませんでした

1年足らずの間に、本部としっかり信頼関係を築けていたとは思えませんでした。関係ができている実感がない相手に「人が足りません」と言うのは、やっぱり言い出しにくかったです。

どれも、当時の私なりの理由です。ただ、結果として「相談しない」を選んだのは私自身でした。ここは体制のせいだけにはできないと思っています。

失敗② 全部を自分で抱えていました

相談しなかった結果、仕事はすべて私のところに積み上がりました。

  • 地域への営業
  • 増え続ける訪問
  • 職員の管理
  • レセプト
  • 毎日のオンコール

なかでも大変だったのが、職員管理とレセプトです。レセプトの大変さは訪問看護ステーション管理者のレセプト業務はどれだけ大変?元管理者のリアルでまとめています。

そこにオンコールが毎日重なります。オンコールはほとんど私が持っていたので、休みの日も仕事が頭から離れなくなっていきました。仕事から完全に離れられる日は、ありませんでした。

疲れたのは「訪問」ではなく、「看護ができなくなったこと」でした

ここは誤解されたくないので、はっきり書いておきます。訪問に行くこと自体は、苦ではありませんでした。1日10件になっても、利用者さんのところに行くのは嫌じゃなかったんです。

辛かったのは、それに加わる管理者としての事務作業でした。訪問の件数は増えているのに、事務はそれ以上に増えていく。気づけば1日の中で、事務に使う時間のほうが大きくなっていました。

看護じゃなくて、事務がメインになっている。看護師なのに、私は何をしてるんだろう。そう思うようになったのは、このころです。

そして最終的に、1年で管理者を辞めました。理由は人間関係と、やりがいを感じられなくなったことです。どこか孤独で、孤立しているような感覚がずっとありました。

全部を一人で抱えていたことと、この孤立感は、無関係ではなかったと感じています。

今ならこうする|元管理者としての反省

あのころの自分に言えるなら、伝えたいことがいくつかあります。

利用者さんが増え始めたころに動く

手を打つべきだったのは、利用者さんが増え始めたころでした。本当に限界になってからでは、相談する余力すら残っていません。「利益が出てから」ではなく、「増え始めたから」相談するべきでした。私は順番が逆でした。

営業だけでも本部に移管できないか相談する

全部を手放せなくても、営業だけでも本部に移せないか相談すればよかったと思っています。営業は大事な仕事です。でも、看護師である管理者が必ず自分でやらなければいけない仕事とは限りません。

「管理者にしかできないこと」と「任せられること」を分ける

管理者は看護に力を入れて、ケアの質を高めることに専念すべきでした。そのためには、管理者にしかできないことと、移譲できることに優先順位をつける必要がありました。いまの私が整理するなら、こんなイメージです。

仕事 いまの私の考え
看護・ケアの質を高めること 管理者が一番力を入れたいこと
職員を大事にすること 管理者にしかできないこと
業績と人員配置をセットで判断すること 管理者にしかできないこと
本部への相談・要望 管理者が自分からやるべきこと
営業 本部に移管できないか相談したいこと

ステーションごとに体制は違うので、これが正解というわけではありません。ただ、「全部自分でやるもの」と決めつけずに一度書き出してみるだけでも、見え方は変わるはずです。

業績と人員をセットで考える

当時の私は、業績と人のことを別々に考えていました。利用者さんが増えたら、その訪問を誰が担うのか。全体を見て、業績とスタッフ配置・補充をセットで考えられていれば、管理者一人だけが疲弊する形にはならなかったのかもしれません。

これから管理者を引き受けるか迷っている人は、訪問看護の管理者に誘われたら確認したい5つのことも読んでみてください。

私が思う「いい管理者」「いい職場」

1年だけですが、管理者をやってみて感じたことがあります。

いい職場は、看護の価値観や理念が近い人たちが、同じ方向を向いて目標に向かえる場所だと思っています。

いい管理者は、職員を大事にするのはもちろん、利用者さんや患者さんに良い看護を提供できることを考えている人だと思います。

訪問看護もビジネスなので、稼ぐことは大事です。私も営業をずっと続けていました。それでも、最後に大事なのは価値観や理念なんだと感じています。

「職員は宝」。これは管理者になる前から変わらない、私の信条です。いま思えば、管理者である自分自身も、その職員の一人として大事にするべきでした。

いま疲弊している管理者の方へ

もし今、あのころの私と同じように一人で抱えているなら、まず知ってほしいことがあります。全部を一人で背負わなくて大丈夫です。

相談することは、弱さではありません。「まだ早い」「相手も大変そう」「言える関係じゃない」。そう思ってしまう気持ちは、私にもよくわかります。でも、相談しなかった私は、結局一人で疲れ切ってしまいました。

正直に言うと、あのころの私は自分でメンタルをコントロールできていませんでした。若かったなと思います。もしあのころの自分に一言かけられるなら、こう言います。

「一人で抱え込まないで、早めに相談して。全体を見ながら改善できることがあれば提案して、もっと良い職場にならないか考えて」

相談は、自分を守るためだけのものではありません。職場を良くするための提案でもあります。私はそこに気づくのが、少し遅かったです。

今日からできることは、この3つです。

  • 困っていることや足りない人手を、本部や上の立場の人に一度言葉にして伝える
  • 自分の仕事を書き出して、「管理者にしかできないこと」と「任せられるかもしれないこと」に分ける
  • 利用者さんの増え方と、スタッフの数を並べて見てみる

それでも状況が変わらないなら、環境を変えるのも立派な選択肢です。逃げではありません。私自身、管理者を辞めたあとはナース専科を使って循環器外科病棟に転職し、いまもそこで働いています。辞めるか迷っている人は、訪問看護の管理者を辞めたい【経験者が伝えたい3つの選択肢】ものぞいてみてください。

まとめ

訪問看護の立ち上げで私が疲弊したのは、成長のスピードとスタッフの数が合っていなかったからです。そしてその中で、私は補充を一度も相談せず、全部を自分で抱えました。

体制の問題もありましたし、私自身の判断の問題もありました。どちらか片方だけのせいにはしたくないと思っています。

もし過去に戻れるなら、利用者さんが増え始めたころに、営業の移管と人員の補充を相談します。そして管理者として、看護と職員を大事にすることに時間を使いたいです。

いま同じ場所で踏ん張っている人が、私より少し早く「手伝ってほしい」と言えますように。

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